「殻割り」や「リキプロ化」という話題が定期的に自作パソコンの世界では出てきます。具体的な方法は「殻割り方法と気をつけたいポイント」で紹介しました。Intel CPUに限定された内容ではあるものの、Intelユーザーが多いことやオーバークロックするために定番の改造となっているため様々な殻割り専用工具やパーツが流通しています。今回は殻割りの概要とメリット・デメリットをご紹介します。
殻割りが必要な理由とメリット
殻割りを理解するには昨今のCPU事情を理解する必要があります。CPU本体にはヒートスプレッダーという金属カバーがあり、CPUコアを守ると同時にCPUクーラーとの接地面を広くすることで冷却性能を向上する目的があります。
CPUとCPUクーラーの間にCPUグリスが必要だったように、CPUコアとヒートスプレッダーの間も隙間を埋める必要があり、従来のCPUはCPUコアとヒートスプレッダーをはんだ付けするソルダリングという方法で密着させ高い熱伝導率を確保していました。
しかしソルダリングは製造コストが高いという問題があり、Intelは積極的にソルダリングを廃止し、代わりに高性能グリスを採用した製品を主力にしています。高性能グリスとはいえ、はんだ付けよりも熱伝導率は低く慢性的な高温状態になりやすいためオーバークロックユーザーの間で独自にCPUを改造する流れが生まれました。
それが「殻割り」という改造で高性能グリスを液体金属に入れ替える改造行為です。殻割りにより通常使用でも10度から20度もCPU温度が下がり、ターボブーストやオーバークロックが安定して長時間運用できるようになります。また効果的に冷却性能できることで冷却ファンの回転数も落ち、静音性にも貢献しやすいという面があります。
Intelはグリスがメイン、AMDはソルダリングがメイン
Intel CPUはCoreiシリーズ第3世代のIvy Bridge以降の上位モデルでソルダリングを廃止しました。それまでは低発熱なエントリー向けCPUを中心にソルダリングを廃止していましたが、高発熱な上位モデルもソルダリングが廃止され始めたことでユーザーからの反発もありました。
最新のCoreiシリーズ第9世代でもオーバークロック対応であるモデルナンバーにKがついている製品だけがソルダリングです。一方AMD Ryzen CPUはグラフィック内蔵の一部エントリー向けAPUを除きほとんどの製品でソルダリングを採用しています。
殻割りのデメリット
CPUを分解するということはCPUの保証が消えるということを意味します。通常であれば3年間のメーカー保証がありますが、分解後は動作しなくなっても代替品を受け取ることは出来ません。
最近では専用のツールを使うことで大幅に改善されましたがヒートスプレッダーを外す際にCPU上のチップやCPUコアを傷つけてCPUを破壊してしまうという事例も多くありました。
また殻割り時に流布する液体金属タイプのグリスは通電性があるだけでなく、アルミを腐食させる製品も存在し、取り扱いを間違うと火災やCPUやマザーボード破壊に直結します。このようなデメリットから殻割りは誰でも気軽にできる改造ではなく、ヘビーユーザーやオーバークロッカー向けとされています。
まとめ
CPUの保証が消えるため殻割りを行っているBTOメーカーは存在せず、あくまでユーザーの自己責任で行う改造という位置づけです。
しかし殻割りで得られる冷却性能は大きく、CPUグリスをアップグレードしても温度がほとんど変わらない場合、次に検討するアップグレードはCPUクーラーのアップグレードか殻割りです。ハードルは高いですがそれに似合った成果は得られる改造ですので興味のある方は殻割りについて調べてみてはいかがでしょうか。